2018年01月13日

深沢七郎『笛吹川』

 傑作である。
 戦国時代、武田家三代にわたる栄枯盛衰の歴史の中で、甲斐の笛吹川の川辺に住む貧農の親子三代が生き抜いた、そして殺されていった一族史である。
 感情を押し殺し、淡々と書き綴った小説には、すごみがある。近年は、大げさな表現がはやっているようだ。ニュース番組では「あってはならないことが起こりました」と、始まった途端に、ニュースキャスターが悲痛な面差しを浮かべて述べる。地球上では、「あってはならないこと」など、毎日・毎時のように起こっているのだ。
 深沢は、そうした悲惨さを戦国時代という歴史を背景として、いぶし銀のような筆で書き綴っている。(2163)
posted by 矢島正見 at 14:30| 我流雑筆