2019年01月11日

『放浪記』E/8

 ようやく、いくらかまともな画家の男と結婚する。ここで、落ち着いた生活を得たフミコは芙美子となり、26歳にて『放浪記』を出す。
 一躍人気作家となる。これが30歳まで売れない詩や童話を書き続けていたら、「林フミコ」はいても「林芙美子」はいなかったであろう。
 26歳まで、よく持続したとはいえるが、その持続こそが惨めな青春をつくった。詩人になりたい、作家になりたいという期待が、彼女を絶望的な人生にさせている。
 詩人になるという野望を捨てて、本など読まずに、つまらぬ男に期待を抱かず、食べること一途に、まじめに働いていたら、そして、下宿を替えずに、返す当てのない借金をしてまで岡山や尾道に衝動的に帰ることなく、職を安定させて、精一杯働いていたならば、結構楽な暮らしをしていられたはずである。女学校出で、読み書きができる才女なのだから。
 好いてくれるしっかり者の男を、好みではないと捨てなければ、結構楽な暮らしをしていられたはずである。
 野心を抱いての生活、一か八かの人生行路、こうした生き方では、実家が裕福でない限り、もしくは躰を売らない限り、辛いのは当然である。幸いにしてフミコは躰が丈夫だった。それが彼女の成功の最大の要因だったのかもしれない。病弱であったなら、「林芙美子」は存在しなかったであろう。26歳まで、体力と精神力がもったことで「林フミコ」は「林芙美子」に変身した。(2308)
posted by 矢島正見 at 11:30| 我流雑筆