2018年12月09日

『現代短編名作選1』

 『現代短編名作選1』を読んだ。昭和20年から23年前半までに発表された15本の短編小説が収められている。文庫本は昭和54年に出ている。
 当時の文庫本の活字は皆小さい。古い小説は皆同じで改行が少なく、文字がぎっしりと詰まっている。実に読み辛い。
 15編中、ただ1編のみが比較的読みやすい。太宰治の『桜桃』である。太宰の小説が青年に人気を博したのは、もちろん内容への共感とストーリー展開の旨味にあるが、この改行の多さも多少はあるのではないだろうか。
 15編中、5編は既に読んだことがあるので、残りの10編を読んだ。15編の大半は戦中・敗戦直後を背景として描かれている。まさに時代性である。
 しかし、阪神淡路大震災にしても、東日本大震災にしても、優れた小説は未だ現れていないようだ。人々に大した影響を与えなかったということであろうか。少なくとも、小説に書く、という作家の激しい衝動を起こさなかったのであろう。
 なお、『鏡の中の赤い月』という短編で面白いことに気付いた。場所は国電有楽町駅のプラットホーム。時間は午後八時過ぎ。場面状況は帰宅を急ぐキャバレーの女性たちが群がっている。昭和22年では、既にこの時間でキャバレーは閉店になっていたわけだ。さらに、ホームの向こうには暗い夜の街があった、と書かれている。
 今では考えられないことである。戦後70年という歳月は、明治維新から日中戦争に至るまでの期間と同じということが理解し得る。(2297)
posted by 矢島正見 at 23:35| 我流雑筆