2018年05月14日

井伏鱒二『珍品堂主人』

 井伏鱒二の『珍品堂主人』を読んだ。骨董品の商いをしている人物が主人公であり、モデルがいるという。読み始めは、骨董品に憑りつかれた男の物語と思っていたのだが、高級料亭の経営で最後には追放されるというストーリーであり、元の骨董品商いに戻るという物語となっている。
 井伏流のひょうひょうとした書き方の中に、実に面白く現実世界の汚さが描かれており、良い小説である。
 ところが、この文庫本には『珍品堂主人』以外に、この小説について書かれた論評が掲載されている。これで、登場人物がわかってしまう。筆者は、あの有名な白洲正子である。
 これによると、珍品堂主人は「秦秀雄」である。ネットで調べてみると、古美術の世界では有名な人物であり、著書も何冊か書いている。その他には、小林秀雄、藤田青花、青山二郎、河上徹太郎、今日出海、三好達治、等の名前が出てくる。
 そして出色なのは、料亭の経営から珍品堂主人を追放した策士の「蘭々女」という張本人が「北大路魯山人」だという。
 とするならば、魯山人は「何でも鑑定団」とはまた別の顔を持った、かなりのやり手であったことが伺える。美術界でもそうした策士であったことが伺える。魯山人の焼き物の評価は要注意である。何年後かには評価ががらりと変わる可能性がある。
 もちろん、秦秀雄もかなりのやり手であり、詐欺まがいのことを平然と行っていたようだ。今では、即警察沙汰であり、訴訟沙汰であろう。
 当時の古美術界の人間関係がよく伝わってくる小説である。(2223)
posted by 矢島正見 at 14:12| 我流雑筆